何かを選ぶことは捨てることに似る『いま生きているという冒険』
『いま生きているという冒険』(石川 直樹/理論社)
実家の気まぐれで、ころころととる新聞を変える。目先が変わったところで、読者の投書欄を読む気になった。「先生のお気に入り」だから、話半分面白半分である。
たしか、5年ほど前の朝日新聞だった。自分は通勤を自転車に換えたらひどく快適である。体調も良い。「車族の皆さん」も、車をやめてみてはいかがか。という内容だった。
どうにも、いやな感じがしたのをおぼえている。
ある経験を経た者は、自分は特別な存在なのだから他とは違う、と見下す視点を持ちやすいだろうか。
「自分はこの経験をしてきた」は「これしか知らない」でもある。
石川直樹は「冒険家」の肩書きにためらいがあるのだという。
学校がよいも早々にうちきり、誰もやらないようなことばかりやっている。ある部族に伝わる技術を教えてもらうために、村に住み込む。星の運行のみをたよりに、海を渡ることもした。
その上で、おわりにさしかかって出てくる言葉が印象に残る。
「現実に何を体験するか、どこへ行くかということはさして重要なことではないのです。心を揺さぶる何かに向かい合っているか、ということがもっとも大切なことだとぼくは思います」
「いま生きているという冒険をおこなっている多くの人々を前にしながら、登山や山下りや航海をしただけで『すごい冒険だ』などとは到底思えないのです」
(p.252「冒険って何?」)。
転職を考える人が読んでも、よいかもしれない。
気球旅行もこころみた石川直樹が、はるか下に見える勤め人たちを見る目には、自分にできないことをしている人たちだという敬意がある。
ふだん、どういう生業をしているのだろうと思ったら、やはり「費用はどう捻出しているのか」と、よく訊かれるらしい。
旅行の計画書をたずさえて出版社をまわり、旅行記を出版する約束のもとに、興味をもってくれた編集者から手助けをしてもらうとのこと。
「よりみちパン!セ」シリーズでは、なかなか本屋でお目にかからないのを残念に思っていた。
急に並びだしたので何かと思いや、賞をもらったようだった。
(たしか、開高健ノンフィクション賞ほか、複数)
西原理恵子の『この世でいちばん大事な「カネ」の話』が、ひところ話題になっていたが、前からこのシリーズは立ち居ふるまいに迷う大人向けのところがある。
◆理論社「よりみちパン!セ」シリーズのページはここ
◆関連エントリ
貴戸理恵『コドモであり続けるためのスキル』はここ
新井紀子『生き抜くための数学入門』はここ
玄田有史『働く過剰』(と『14歳からの仕事道』)はここ
辰巳渚『家を出る日のために』はここ
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